江戸川乱歩原作選 Myベスト7 パノラマ島綺譚&サーカスの怪人
江戸川乱歩原作選もベスト7へ。長・中短編からは「パノラマ島綺譚」この物語は、いわゆる ”トリック” ”謎解き” というよりは、1人の退屈男の奇想天外な夢想とその一生涯を描いたもの
その事業を成し遂げた男の最期。ラストは、私の記憶にも生涯消え失せることはないでしょう
そして、少年探偵シリーズからは「サーカスの怪人」なんと、怪人二十面相の本名・素性が明らかになる異色作。いつもは、宝石類を狙う怪人二十面相。今回は違います。狙うのは、人間。いつもと違う展開、二十面相の秘密に注目の作品です
江戸川乱歩原作選 Myベスト7
長・中短編
パノラマ島綺譚
□ 登場人物
・人見廣介(小説家)
・菰田源三郎(大富豪の当主)
・菰田千代子(源三郎夫人)
・角田執事(菰田家の執事)
・北見小五郎(文学者)
□ 主なあらすじ
時は現在。大富豪菰田家の所有する無人島(沖の島)。その島で起こった、ほんの一部の人間しか知らない事実を回想する形で物語は始まる
そこには実に、殆ど信ずべからざる、一場の物語があるのです。その一部は菰田家に接近する人々には公然の秘密となっている所の、そしてその肝要な他の部分は、たった二三人の人物にしか知られていない所の、世にも不思議な物語があるのです(本文より抜粋)
売れない小説家:人見廣介は人生に退屈していた。そこへある吉報が舞い込む。自分と瓜二つである大富豪:菰田源三郎の死。人見は、理想郷の実現に向け動き出す。菰田源三郎になりすまし、膨大な資産を利用、彼の大事業を成し遂げようというものであった
土葬された菰田氏。人見は、遺書を残し、自分をこの世から抹殺した。菰田氏の墓を掘り出し、死体を隣の墓へ埋葬。菰田氏に変装した人見は、通りかかった子供たちに発見される
「オイ、見てみい、何やら寝てるぜ」
「なんじゃ、あれ。狂人か」
「死人や、死人や」
「側へ行って、見たろ」
「見たろ、見たろ」(本文より抜粋)
まんまと菰田家に乗り込んだ人見。菰田家の人々の様子を伺う。そして、パノラマ島の建設に向け、次々と作業員や若い女性をを雇うのであった。しかし、人見には、たった一つの不安があった。源三郎の未亡人:千代子の存在である。源三郎の癖を知り尽くした千代子を警戒せざるを得ない人見。その千代子は、生き返った夫:源三郎をしだいに疑うようになる
理想郷:パノラマ島の完成も間近に迫る頃。人見は、千代子と共に島に向かう。大森林、水中の海藻・魚たち、大渓谷、沼、花園、裸女の人魚・白鳥・蓮台、打ち上げられる花火
とある花の山陰から、まるで御祭の行列の様に、しずしずと一組の女たちが現われました。多分身体全体を化粧しているのでしょう。青みがかかった白さに、肉体の凹凸に応じて、紫色の隅を置いた、それ故に一層陰影の多く見える裸体が、背景の真っ赤な花の屏風の前に、次々と浮出して来るのです(本文より抜粋)
千代子は、この世のものと思えない光景に驚くばかり。しかし、次第に源三郎の存在に怯えていくのであった。源三郎になりすました人見は千代子を問い詰めた
「お前の考えていることを云ってごらん。私をどんな風に思っているのか、云ってごらん。サア」(本文より抜粋)
千代子は本音を漏らす・・・あなたは夫と別人では?人見は正体を暴露した。パノラマ島の完成のために邪魔になった千代子を殺害した人見。千代子の死体を隠す
数日後、1人の人間が現われる。文学者である北見小五郎。北見は、人見を問い詰めた
・人見廣介と菰田源三郎は瓜二つであること
・自殺したとされる人見廣介は、「RAの話」という小説で、パノラマ島の建設を書いていたこと
北見は、源三郎になりすました人見の正体を見破った
・発見された千代子の死体
・掘り出された源三郎の死体の隠し場所
人見は観念した。そして30分ばかり時間がほしいと言う。北見は承諾した
「私はどこにお待ちしていればよいのでしょうか」(本文より抜粋)
人見は
「花園の湯の池の所で」(本文より抜粋)
と言って、姿を消した。北見は、数多の裸女たちに混じって、湯の池で人見を待つ。そこへ、花火が上がった。降り注ぐ紅の飛沫と人間の手首
か様にして、人見廣介の五体は、花火と共に、粉微塵にくだけ、彼の創造したパノラマ国の、各々の景色の隅々までも、血液と肉塊の雨となって、ふりそそいだのでありました(本文より抜粋)
人間花火。現実にはあり得ないことでしょうけど、乱歩の発想にただただ驚くばかりです
乱歩の作品には度々退屈男が登場しますが、パノラマ島綺譚もその退屈男が主人公。墓を掘り出して死人になりすます、瓜二つという偶然を利用した犯罪もまた、乱歩の独特な世界ですね
この物語は主人公:人見廣介の目線で終盤まで進みます。名探偵:明智小五郎は登場せず、文学者:北見小五郎が謎解きのために登場するのが、ほんとに終盤。乱歩は、人見廣介の生涯を描きたかったのでしょう
① 「二銭銅貨」や「人間椅子」のような、トリック・どんでん返しのラスト
② 「魔術師」や「陰獣」のような、本格的な謎解き
③ 「蜘蛛男」や「人間豹」のような、犯罪を一種の美学と称する男の一生涯
分類するとすれば、「パノラマ島綺譚」は③に分類されるのでしょうか
北見小五郎に正体を暴かれて、あっさり観念する人見廣介。その潔さ。死を覚悟していたのでしょうか?花火もそのための創作だったのでしょうか?事業を成し遂げ、自分の理想郷を作り上げた人見廣介は達成感でいっぱいだったのでしょう。犯罪を犯すことは許されないことですが、彼の生き方にある意味、尊敬の念を覚える私でした
さて、原作「パノラマ島綺譚」は、2つの作品で映像化されています
① 江戸川乱歩美女シリーズ「天国と地獄の美女」
② 江戸川乱歩全集「恐怖奇形人間(Horror of a Deformed Man)」
①は、ドラマの大筋は原作どおりですが、結構アレンジ化してますね。登場人物が増えてますしラストの人間花火も・・・。正月の1982年1月2日に放送されたこの作品。冒頭で明智小五郎(天知茂)が言うように、シリーズの中でも一番スケールの大きい、最も恐ろしい作品に間違いないですね。この作品を観てから花火を実際にこの目で見ると、いつも人間花火を思い出すんです
②は、原作「孤島の鬼」もベースになっています。監督は石井輝男氏で、1969年公開映画となっています。以前掲載した記事も見てくださいね
① 江戸川乱歩美女シリーズ 天国と地獄の美女 江戸川乱歩のパノラマ島奇談
出演:天知茂、叶和貴子、伊東四朗、小池朝雄、宮下順子ほか
② 江戸川乱歩全集「恐怖奇形人間(Horror of a Deformed Man」
出演:吉田輝男、土方巽、大木実、由美てる子、小畑通子、賀川雪絵、小池朝雄、近藤正臣ほか
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