江戸川乱歩原作選 Myベスト6 三角館の恐怖・魔法(悪魔)人形
江戸川乱歩の長編「三角館の恐怖」ファンの方ならご存じかと思いますが、人気的にはどうなんでしょう?私はベスト6に挙げるほどですから、傑作作品だと思ってます。江戸川乱歩作品に限らず、推理小説やドラマ作品等意外な犯人と動機にいつも驚かされます。意外に思うということは、作者の術中にはまったわけで。作家や脚本家の凄さ!改めて感じます。この「三角館の恐怖」も、そういうことで・・・原作を読んだことのない方は、どうぞ、犯人を想像してみてください
少年探偵シリーズからは「魔法(悪魔)人形」タイトルからしてワクワクしてきます。毎回、いろんなことを仕掛けてくる怪人二十面相。今回は、人形使い。人形って、可愛いですが、じっと見つめていると怖い感じもしますね
それでは作品へ
江戸川乱歩原作選 長・中短編 Myベスト6
三角館の恐怖
◇ 主な登場人物
☆ 右三角館の住人
・蛭峰健作・・・双生児の兄
・蛭峰健一・・・健作の長男
・蛭峰丈二・・・健作の次男
・穴山弓子・・・健作の亡妻の妹
・女中2人
☆ 左三角館の住人
・蛭峰康造・・・双生児の弟
・蛭峰良助・・・康造の養子
・鳩野桂子・・・康造の養女
・鳩野芳夫・・・桂子の夫
・猿田老人
女中2人
・森川五郎・・・弁護士
・篠警部
※ 明智小五郎は登場しません
◇ 主なあらすじ
物語にはいる前に、この奇怪な殺人事件の舞台について、簡単に説明しておくほうがよいと思う。その家はいくらかの予備知識がなくては、ほとんど納得できないような、世にも異様な建物だからである(本文より抜粋)
① 遺言状の内容
異様な三角館のエレベーターを挟んで、右に双生児の兄:蛭峰健作の家族、左に双生児の弟:蛭峰康造の家族が住んでいた。捨て子だった2人は父に拾われ育てられた。父には実子があったが病死した。父の遺言の内容は、簡潔にいうと、2人のうち、生き延びた方に全財産を与えるというものだった
② 兄の思い
余命短い兄:健作は、森川弁護士立ち会いの下、弟:康造にある提案を持ちかけた。どちらが先に死んでも、財産を等分に分け合うというものだった。しかし、物別れに終わる
③ 第一の殺人事件
弟:康造家族は晩餐を囲んでいた。康造は、父の遺志を継ぐため、兄:健作の申し出を断ると話していた。そしてその夜、第一の殺人事件が起こる。康造の左三角館に響いた銃声。テーブルにうつぶせで死んでいたのは弟:康造であった
④ 財産の行方は?
弟:康造が死んだことにより、事態がひっくり返って、全財産は兄:健作が引き継ぐ権利を持つ。しかし、兄:健作の意思は変わらなかった。健作の2人の実子:健一と丈二の反対も振り切り、全財産を等分にする旨の証書書類を弁護士に作成させた
⑤ 証書の紛失
その証書が紛失した。財産を等分にするという内容の証書、何者かが盗んだのか?その理由はいかに?
⑥ エレベーター密室殺人
証書が紛失したことを知った兄:健作の意思は変わらなかった。副本の作成を森川弁護士に依頼する。しかし、その副本が効力をなす前に、第二の殺人事件が起こる。エレベーター内で兄:健作が殺害された。首に短剣が突きささっていた。エレベーターは、3階から1階まで止まることなく、また、誰も出入りすることが出来ない。この密室殺人のカラクリはいかに?
⑦ 両家の住人
右三角館の兄:健作の実子、健一と丈二は独身で、仕事もつかない兄弟である。穴山弓子は健作の亡妻の妹で、蛭峰家に入り姉の2人の子を育ててきた
左三角館の弟:康造には実子がなかった。そのため、良助と桂子を養子にした。桂子は、夫:鳩野芳夫と結婚し、夫姓を名乗っている
鳩野芳夫は、事業展開により、唯一、生活能力のある男であった
夫を持つ鳩野桂子と蛭峰丈二は不倫関係、密会を重ねていた。しかし丈二は、伯父:康造が死亡すると桂子から離れ、また、父:健作が財産を等分にするというと桂子に近づく。桂子は、丈二の気持ちに不安を示すのであった
桂子の声「やっぱり、財産のためだったのね」
丈二「それはどういう意味だい」
桂子「健作伯父さんが証書の判を捺さないで死んでしまったので、あたしたち兄妹は一文なしになったからよ。そして、あなたとあなたのにいさんは、いっぺんにお金持ちになってしまった。あたし、お金のことで人間の気持ちがこんなに変わるなんて、想像もしていなかった」(本文より抜粋)
⑧ 小銭泥棒と脅迫状
弟:康造は金庫から現金が頻繁に盗まれているため、印をして細工をしていた。篠警部は、猿田老人から借りるふりをして、その目印の現金を見つけ、泥棒犯人が猿田老人だったことを追及した。その猿田老人は、たびたび現われるソフトとオーバーに変装した犯人を唯一目撃自他人物であった。その猿田老人に犯人から脅迫状が届く
⑨ 篠警部の罠
篠警部は犯人を知っていた。兄:健作が作成した証書を隠したのは警部であった。警部は、森川弁護士に、証書の現存をを両家族に伝えるよう指示する。今夜現われる真犯人。警部は、穴山弓子と鳩野桂子の女性2人と猿田老人を近くに旅館に避難させた。そして、健一を洗濯室、丈二と良助を調理室、鳩野芳夫を竈室へそれぞれ待機させ、外からやってくる犯人を捕らえる計画をたてた。篠警部の目的はなんなのか
「では、これから、地下室の部屋々々の持ち場をきめましょう。われわれは広い地下室の四方に分散して、犯人の退路を断ち、いざという時に、彼を包囲できるような体勢をとらなければなりません」(本文より抜粋)
⑩ 真犯人は誰なのか?
この小説をお読みになっていない方、真犯人と動機を考えてみてください。ヒントは、だいたい記したつもりです。そして、実際に小説をお読みになるか、この後の解決編で答え合わせをしてみてください
◇ 解決編
約束の深夜0時、犯人が現われた。地下室で待機する男たちが待ち構える。その時、篠警部は走り出した。2階に向かったのである。2階には、証書が入っている金庫が・・・
真犯人は取り押さえられた。鳩野芳夫である。鳩野は、注意を地下室に惹きつけ、その間に証書を盗み出そうとした
芳夫は、妻:桂子をこよなく愛していた。しかし、当の桂子は不倫を繰り返す。丈二との関係も知っていた。芳夫にとっては、財産の分け前が桂子に渡ることが、最も恐れていたことであった
桂子は、夫の生活能力だけに頼っていた。桂子が金を持つことで、自分から離れていくと悟った芳夫はまず、桂子の父:康造を殺害した。財産は、健作家族が相続すると踏んだためだった
しかし、健作は、財産を等分にするという証書を作成し、意思は固い。証書を盗み出そうとするも失敗した芳夫は、さらに、健作を殺害することになった
うわべは分別臭い紳士の鳩野も、その心中に常識では計り得ない惑溺の情熱を燃やしていた。彼はつれない細君に対する、つれないが故にこそいやまさる愛慾を、制御することができなかった。愛慾の狂者となり終ったのだ。考えてみれば、彼は実に可哀そうな男だよ(本文より抜粋)
私が「三角館の恐怖」に出会ったのは、実はポプラ社発刊のシリーズに”大人向け”があり(現在廃版)その際に読んだ子供の頃。いやあ、面白かったですね。その後文庫版を読みました
まず、財産をめぐる殺人事件と想定できたものの、まさかの真犯人と動機に”あっ”と言わざるおえない感じです
鳩野芳夫は、事業により生活能力があり、特に金に困っているわけではないですね。そして、殺人により、財産は、兄:健作家族が有利になるように展開されます。当然に金目当てなら、健作家族が容疑者として有力とされるわけです
鳩野芳夫は、最も、怪しくない人物といっても過言ではありません。私は、深読みして、篠警部が避難させた3人(穴山弓子、鳩野桂子、猿田老人)の中に犯人が・・・とも考えました。まんまと騙されたといった感じです
さて、この物語は、乱歩独特のエログロ感というよりは、正攻法的な推理モノ。乱歩作品には貴重な作品といえるかもしれません
三角館という舞台設定。エレベーターを挟んで双生児の兄弟家族が住み込み、奇妙な遺言状の内容。なんとも異様な空気が漂います
そして、第一の殺人(弟:康造)でビンタを食らった感じ。えっ、殺されたのは弟の方???なんてね。兄:健作が生き残ったわけですから、遺言状的には、兄家族が相続するわけで、兄家族の中に犯人が・・・と思うのが定石です
第二の殺人のエレベーター密室の謎も興味深いトリックでした。そして、弟:康造までが殺される。もう、わけがわかりませんでした
財産相続という金を巡っての殺人事件。殺人によって誰が一番得をするのか・・・ただただ金欲しさの物語ではなかったのですね
人間の心は深いものです。小説の中でもいってますが、鳩野芳夫は、実に可哀そうな男です
◇ 三角館の恐怖映像化作品
私の知っている限りでは、江戸川乱歩美女シリーズ第23話「炎の中の美女」のみです。ドラマでは、真犯人とその動機はほぼ原作どおりですが、あらゆるところでアレンジ化しています。登場人物は、双生児兄弟が登場せず1人のみ。そして、荒熊という新たな人物も現われます。殺人シーンもエレベーター密室殺人ではないですね
鳩野桂子役に早乙女愛さん。妖艶ぶりを発揮しています。他に2人の女優も出演し、セクシーシーン満載のドラマとなっています
出来れば、原作どおりに映像化して欲しかった・・・そんな印象ですが、見どころたくさんの作品!
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